理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
「お待たせして、すみません」
京都駅で葉子さんを見つけ、駆け寄って頭を下げると…
「ふふふ。逸晴くんが寝かせてくれへんかったって、顔に書いてあるわぁ」
と、笑う葉子さん。
「ゆっくり話、聞かせて貰いたいし…
ほな、行きまひょ」
と、タクシー乗り場に向かうと、そそくさと乗り込み目的地を告げる。
「昨夜は、逸晴くんがアヤちゃんに気を許してはるのんが、よお分かって、当てられっぱなしやったわぁ」
うふふと柔らかく葉子さんは微笑んだけれど、どちらかといえば、二人の仲の良さに終始当てられっぱなしだったのは、私達の方だったはずだからと、
「そんなコトないと思いますけど…」
苦笑いで答える。
「逸晴くんが、小さい頃からテレビやら映画やらに出てたんは知ってはるのよね?」
当たり前のコトのように切り出された話に、
「いえ、実は…
小さい頃からあんまり家でテレビは見せてもらえなくて、でもいつの間にかそれが当たり前になっちゃって、今でもニュース以外はほとんど見ないので芸能人にも疎くて…すみません」
イッセイがどれほどすごい人なのか、知りもしなかった己の無知さを恥じながら、頭を下げる。
「謝るようなコトやあらへんし、気にせんといて。
ウチの言い方も悪かったわ、堪忍え」
困ったように眉を寄せる葉子さんに…
「でも今は、彼がどんな人なのか知りたいと思ってます」
その場の雰囲気を変えたくて、そう笑いかけると、葉子さんの表情もぱぁっと明るくなる。
「国営放送の朝ドラとか、大河ドラマとかにも子役の頃から出てたしな、地元の電鉄のCMにも出てたわ。
民放のドラマは、撮影で京都を離れなアカンのが嫌らしゅうて、あんまり引き受けたりはせぇへんけど…
映画や舞台の仕事はチョコチョコ受けてはるみたいやわ」
「へぇ~。じゃあ、結構な有名人なんですね?」
自分で聞き出しておきながら、改めてイッセイとの距離を感じてしまい、なんだかセツナくなる。
「それなりには…やね。
せやけど、そのことで、やっかまれたり、売名行為で近づく人もぎょうさん居てはってな…
役作りの為に覚えた標準語が、いつの間にか他人との距離を保つ為の言葉になってしもて…
家族や親しい人以外には、あんまり京言葉を遣わんようなっていったんやわ。
そのコトを、お義父様に叱られてしもてん。
『京言葉も遣えん、京の狂言師なんて笑えん!』言うて…
それ以来、流石に地元では喋らはるけど、余所の人にはなかなか…
せやけど、アヤちゃんには普通に使ってはったし、『これは!』って思たんよ」
少し、興奮気味に話す葉子さんに、相槌を挟みながら頷きつつ話を聞く。
「ウチらの幸せは、逸晴くんの犠牲の上に成り立ってるんよ
沢山、傷ついた人やからこそ、幸せになって欲しい…
ウチら、ホンマにそう思てんのや。
せやから、逸晴くんを支えてあげてな」
ギュッと、私の手を握る葉子さんに…
約束する立場にない私だけれど、手を握り返さずにはいられなかった。
けれども…
イッセイの犠牲にしたものが何なのか、気になって…
それなのになぜか、聞いてはいけない、恐ろしいコトのような気がして…
そのまま聞き流すことにした。
京都駅で葉子さんを見つけ、駆け寄って頭を下げると…
「ふふふ。逸晴くんが寝かせてくれへんかったって、顔に書いてあるわぁ」
と、笑う葉子さん。
「ゆっくり話、聞かせて貰いたいし…
ほな、行きまひょ」
と、タクシー乗り場に向かうと、そそくさと乗り込み目的地を告げる。
「昨夜は、逸晴くんがアヤちゃんに気を許してはるのんが、よお分かって、当てられっぱなしやったわぁ」
うふふと柔らかく葉子さんは微笑んだけれど、どちらかといえば、二人の仲の良さに終始当てられっぱなしだったのは、私達の方だったはずだからと、
「そんなコトないと思いますけど…」
苦笑いで答える。
「逸晴くんが、小さい頃からテレビやら映画やらに出てたんは知ってはるのよね?」
当たり前のコトのように切り出された話に、
「いえ、実は…
小さい頃からあんまり家でテレビは見せてもらえなくて、でもいつの間にかそれが当たり前になっちゃって、今でもニュース以外はほとんど見ないので芸能人にも疎くて…すみません」
イッセイがどれほどすごい人なのか、知りもしなかった己の無知さを恥じながら、頭を下げる。
「謝るようなコトやあらへんし、気にせんといて。
ウチの言い方も悪かったわ、堪忍え」
困ったように眉を寄せる葉子さんに…
「でも今は、彼がどんな人なのか知りたいと思ってます」
その場の雰囲気を変えたくて、そう笑いかけると、葉子さんの表情もぱぁっと明るくなる。
「国営放送の朝ドラとか、大河ドラマとかにも子役の頃から出てたしな、地元の電鉄のCMにも出てたわ。
民放のドラマは、撮影で京都を離れなアカンのが嫌らしゅうて、あんまり引き受けたりはせぇへんけど…
映画や舞台の仕事はチョコチョコ受けてはるみたいやわ」
「へぇ~。じゃあ、結構な有名人なんですね?」
自分で聞き出しておきながら、改めてイッセイとの距離を感じてしまい、なんだかセツナくなる。
「それなりには…やね。
せやけど、そのことで、やっかまれたり、売名行為で近づく人もぎょうさん居てはってな…
役作りの為に覚えた標準語が、いつの間にか他人との距離を保つ為の言葉になってしもて…
家族や親しい人以外には、あんまり京言葉を遣わんようなっていったんやわ。
そのコトを、お義父様に叱られてしもてん。
『京言葉も遣えん、京の狂言師なんて笑えん!』言うて…
それ以来、流石に地元では喋らはるけど、余所の人にはなかなか…
せやけど、アヤちゃんには普通に使ってはったし、『これは!』って思たんよ」
少し、興奮気味に話す葉子さんに、相槌を挟みながら頷きつつ話を聞く。
「ウチらの幸せは、逸晴くんの犠牲の上に成り立ってるんよ
沢山、傷ついた人やからこそ、幸せになって欲しい…
ウチら、ホンマにそう思てんのや。
せやから、逸晴くんを支えてあげてな」
ギュッと、私の手を握る葉子さんに…
約束する立場にない私だけれど、手を握り返さずにはいられなかった。
けれども…
イッセイの犠牲にしたものが何なのか、気になって…
それなのになぜか、聞いてはいけない、恐ろしいコトのような気がして…
そのまま聞き流すことにした。