理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
昼休みに社食で待ち合わせをし、一足先に着いた私が席を確保しておく。


ウチの会社の社食はビュッフェスタイルで、事前にメニューの確認を取っておかなくても大丈夫だからと、食券を購入して待っていると…

入り口にマキ先輩の姿を見つけ、

「先輩、こっちです~」

ぶんぶんと手を振る。


「あんたって子は、もう!
恥ずかしいでしょ」

足早にやって来たマキ先輩に、デコピンされ、

「痛いです…」

額を押さえながら、マキ先輩の後を追って、ビュッフェカウンターへと並んだ。



食べながら、マキ先輩に旅行の相談をすると…

「飛行機?新幹線?」

と、尋ねられる。


ここ福岡県からなら、どちらでも良いけれど…

「新幹線にします」

利便性を考慮してそう答えると、

「あんたみたいなオッチョコチョイは、乗り遅れても次がある、新幹線の方がいいかもね」

と言われ、肩をすくめて小さくなってしまう。


「宿は?ホテル?旅館?何泊の予定?」

矢継ぎ早の質問に、

「オシャレなホテルも良いし、雰囲気ある素敵な旅館もいいですよねぇ。

お盆休みをズラして有給休暇と合わせて、10日位、休みが取れそうなんで、ゆっくりできる所が良いんですけど…」

ぼんやりとしか答えが返せないでいると、

「宿をコロコロ変えると、荷物を持っての移動が大変だから、1~2ヶ所に絞ったら?」

と、的確なアドバイスが返ってくる。


「そうします。
ホテルと旅館、どっちにするかも、洋介にも相談して…」

「そうね。それがいいわ。

にしても、いっつも彩ん家でタダ飯食べてる劇団員に、よく旅行なんて甲斐性があったわね」

「それは、その、色々あって、たまには、まぁ…」

私が出すなんて言ったら激怒されるだろうから、正直に言えずにゴニョゴニョとごまかす。


「まぁ、いいわ。

まずは、洋介君と話し合って、行きたい場所をピックアップしてきて。
その後、オススメを加えながらプランを立てましょ。

コレ、貸してあげるわ」

そう言ってマキ先輩は、京都のガイドブックを2冊、私に差し出すと、食後のコーヒーを注ぎに席を立った。


表紙を飾る舞妓さんや、お寺の写真に胸が躍る。


私の頭の中は、その日から…

旅行プランと、公演の差し入れで、いっぱいになった。
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