理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
シャワーを浴びて、二人で朝食を摂り、着替えや身支度を済ませる。


チェックアウトを考えて、荷物を纏めなくちゃいけないんだろうけど…
今度はドコへ行くつもりなんだろう?


有名人がパパラッチ対策の為にホテルを点々とする、なんて話を聞いたことがあるけれど、この場合もそうなのかな?


それとも、夢の時間はもう、終わりなのかな?


不安な気持ちを必死に押し隠して、少しずつ荷造りを始め出すと、イッセイが声をかけてくる。


「アヤ、ちょっとエエか?
これからのコトなんやけど…」

そう言って、
『おいでおいで』と、手招きするイッセイは…

見晴らしの良い、青空が広がる明るくて大きい、窓ガラスの前に立っている。


『…ついに来た』

これから切り出されるであろう別れの言葉に、覚悟を決めながら、一歩ずつ歩みを進め…

『泣かない』コトと、『感謝の気持ちを伝える』コト…
この二つを心に決めて、奥歯をグッと噛み締めて顔を上げた。


私の両手をそっと握ったイッセイは、緊張しているのか、どこかぎこちない笑顔を浮かべ…

「えっと…」

と、紡ぐ言葉を探していた。


優しいイッセイは、私を傷つけないように配慮しようとしてくれているのか、複雑そうな表情を浮かべて…
天を仰いで大きく深呼吸した。


『もう良いよ。
そんなに困った顔しなくても、ちゃんと分かってる』
そう、自分から切り出そうとした瞬間…


イッセイが、すぅっと片膝をつき…

「これからは、俺の家で暮らさへんか?」

と、言った。


一瞬、何を言われたのか分からなくて…
返事も出来ずに、ただ瞬きを繰り返してしまった。


「ウチに来るんは嫌か?」

改めてそう言われて、やっと何のコトだか理解することが出来た。

イッセイの家にお泊まりなんて、想像もしていなかったから、ビックリし過ぎて理解できずにいたんだ。


「じゃあ私、今夜から晩御飯作っても良い?
外食と欠食で、食生活が乱れちゃって。
もちろん、イッセイの分も作るし」

と、申し出てみたら、すっごく喜ばれて…

イッセイも、一人暮らしで、食事に不自由してたのかな?
なんて、考えていた。
< 148 / 151 >

この作品をシェア

pagetop