理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
「マキ先輩、今日のランチ〔ロータス〕行きませんか?
今日の日替わりランチ、中華ですよ」

ひらひらとガイドブックを揺すりながらそう声をかけ、

「素直に『一緒にプラン考えて下さい』って言えば?
それとも『デザート分けてください』かしら?」

マキ先輩にからかわれながら、お昼休みの約束を取り付けた。



〔ロータス〕は会社の近くにある無国籍カフェで…
何でも一皿に盛り付けてしまういわゆるカフェ飯とは違い、一品ずつタイミングを見て提供してくれる気配りが嬉しい、日替わりランチが人気のお店。


奥のテーブル席へ案内され、オーダーを済ませると、

「で、何か決まったの?
彼氏の希望は?」

ガイドブックをパラパラと捲りながらマキ先輩に尋ねられる。


「カレは、〔劇団季節〕の公演と、ホテルのベッドサイズがダブルってコトくらいしか希望ないみたいで…」

そう答えるや否や、

「や・ら・し~」

ニヤニヤしながらからかうマキ先輩。


「ち、ち、違いますよ!!

ツインです、ツイン!!

出発が、洋介の公演が終わる土曜日の夜を待って、翌日の日曜日の正午でしょ?
それで、

『公演の疲れが残ってるのに、お前に合わせて観光で歩き回ったりしたら、グッタリするだろ。
ベッドくらい、ゆっくり使わせろよ』

って、言ったんです!!
決して、そんな…」

慌てて弁解する私を、マキ先輩はクスクス笑い、

「そんなに必死に否定しなくったって、恋人同士なんだからいいじゃない。
例え恋人同士じゃなかったとしても、旅の恋はなんとやら…よ」

意味深なウィンクまでくれる。


「もうっ」

頬を膨らませて拗ねると、

「ハイハイ、悪かったわ。

ねぇ、ココなんかどう?
〔京都ブランホテル〕」

ガイドブックを捲り、真っ白な外観の建物の載ったページを開いて見せてくれる。


「〔京都ブランホテル〕ですか?
京都のイメージっぽくは無いですけど、オシャレで立派な建物ですね」

身を乗り出してガイドブックを覗き込むと、

「ちょっとお値段はお高めだけど、駅からも近いし…
ここのラグジュアリールームなら室内も広々としてるし、ダブルを上回るクイーンサイズのベッドに、外国人が入っても余裕のある大きなバスタブまであるわよ」

と、畳み掛けるようなマキ先輩のセールストーク。


「きっと、ゆっくり寛げるわよ」

その一言がダメ押しとなり、

「決めます!!
そこに7連泊で!!」

そう断言すると、

「じゃあ、空室状況を調べなきゃね」

そう言うと、まるで旅行会社の職員かと思うほどの素早さでタブレットを取り出し、検索ついでに予約まで入れてくれた。


「後は、おいおいプランを考えていきましょうか」

「はいっ」

そんな会話をしていると、楽しみにしていたランチの一品目、『クラゲの酢の物と金新菜の甘酢漬けの冷菜2種盛り』がテーブルに並び、ひとまず旅行プランは中断。


ガールズトークを広げながらランチを楽しみ、ついでにデザートの『杏仁豆腐』は、マキ先輩の分まで美味しくいただいた。
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