理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
お互いの唇の形を確かめる様に…

何度も唇を重ね…

見つめ合い、微笑み合う。


唇の先端を離さないまま、イッセイが口を開き


「モノトーンが好きなワケちゃうよ。

自分に似合う色っていうんかな…
しっくりくる色が、分からんようになってしもて…
たまたま、そん時の気持ちによう似た、黒ばっかり着ててん。

ほんで、なんとはなしに夏場は暑そうに見えるやろからて、グレーとか白にして…
ってしてるうちに、そんな色ばっかりになっただけやし。

まぁ、白シャツなんかは、便利なアイテムではあるけど。

せやけどコレで、色の世界が広がったような気ぃするわ。
アヤにとって、俺のイメージは空色なんやな?」

そう言って、イッセイが笑うと…
やっぱり、青空みたいに爽やかな風が、吹き抜けていくような気がした。


『青』ではなく『空色』と言ったイッセイは…
ひょっとしたら私と、価値観や感性が似ているのかも…

なんて、少し自惚れながら…

「ごめんね。
男の人にシャツ買うなんて初めてで…

本当は、よく分かんなくて、葉子さんにお買い物も付き合ってもらったの。

だから、私がこのシャツ選んだ時に、葉子さんが『とれ』ナントカって言ったのも分かんなくて…
でも、イッセイは首が長いから『きっと似合う』って言われて、それで…」

上手く伝えることができないもどかしさに、言い淀むと…
ベッドの淵に座ったイッセイが、私を引き寄せて膝の上に座らせる。


「『トレ』は、イタリア語で3のコトや。
『ボットーニ』は、襟。

せやから、トレボットーニは、この襟のボタンが3つあるシャツのコトや。

せやけど、エエんや。
そないなコトより、アヤが選んでくれたコトが、嬉しいんやから」

イッセイは、唇を離さないまま私を抱きしめ…
『イイ子』『イイ子』するみたいに、頭を撫でた。


「ホンマに嬉しい。
ありがとう、おおきに」

イッセイはもう一度そう言い、ニコニコしながら…

「お礼に抱きたい」

なんてコトを言い出す。


「そんなのお礼じゃない!」

ブンブンと横に首を振る私に…

「ほな、嬉しいから抱きたい」

だなんて言って、またまた私を慌てさせ…

結局、チェックアウトには、もう少し時間がかかるコトになった。
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