理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
あれから毎日のように、マキ先輩にいろいろアドバイスしてもらい…
新幹線の切符や、〔劇団季節〕のチケットも手に入れ、だいたいのプランも纏まった。

2日後の出発を前に…
明日の公演を控えている洋介の為に、今夜から差し入れの準備をしなきゃと思っていると、マキ先輩に〔ロータス〕へのランチを誘われる。


「もちろんです!!」

そう答えて訪れた店内で、ふいに

「はい、彩。
コレ、お餞別代わりにあげる」

マキ先輩がチケットをテーブルに置いた。


【簓流狂言・笹森伊之助家 納涼狂言会】


そう書かれたチケットに、首をかしげると

「狂言よ。
笑いの要素が満載で、伝統芸能の中ではとっつきやすいし…
ドレスコードも無ければ、作法もないから安心でしょ?

彼も役者のはしくれなら、見ておいて損は無いと思うし」

そう言われてみて、やっと本来の旅行の目的を思い出す。


『本物に触れてオトナのイイオンナになりたかったんだ…私』


それなのに、いつの間にか洋介との旅行に意地になっていたコトが恥ずかしい。


それなのに、そんな私のコトだけじゃなく、洋介のコトまで気遣ってくれるマキ先輩の優しさに感動して…

「わぁ~!!
狂言なんて、生まれて初めてです!」

満面の笑みでチケットを握り締めた。


「洋介も楽しんでくれると良いな」

そう呟きながら、狂言が何なのかはまだよく解らなかったけれど…

お互いの為になるはずの貴重なチケットを、大切にバッグにしまった。


運命を変えるチケットになるだなんて、思いもせずに…
< 16 / 151 >

この作品をシェア

pagetop