理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
部屋に入ると、慎重にドアを閉め、なるべく足音を立てないように奥へと進む。


そっと壁に耳をつけると…

「いいのぉ?
そろそろ例の『差し入れちゃん』が来るんじゃな~い?」

一緒に居るらしい女性の、甘ったるい声が耳に入る。


悪意を感じるその呼び名に、心中穏やかでは無いけれど、

「ノック無しにドア開けるような奴じゃないから、大丈夫。

この状況見たって、打ち合わせ位にしか思わないよ」

『ハハッ』と乾いた笑いを飛ばす洋介に、

「信用されてるんだ?」

つまらなさそうな女性の声が返ってくる。


信用されているんだというコトに、溜飲が下がる思いだと感じたのも束の間…

「違う。
アイツは『彼氏』っていう存在に執着してるだけで…
俺のコト、そんなに好きじゃねーし」


『…ナニ、イッテルノ?
ソンナコト、アルハズナイデショ?』


ラブラブって言えるほど、情熱的な関係じゃ無かったにしても…

お互いを大切に思い合える、穏やかな関係だと思っていたのに…。


勝手に自分の気持ちを決め付けられたコトに傷つく。


「へぇ、もったいな~い。
こんなにカッコイイのにぃ~」

小馬鹿にしたようにハシャぐ、甘ったるい声に、

「そう、顔だけ。
連れて歩くには見栄えがいい方が自慢できるだろ?

後は…
タダ飯食いの厄介者」

『ハハッ』と、自虐的な笑い声が聞こえる。


『そんなコト思ってない!!』

今すぐ飛び出して否定したいけれど、

「まぁ…
アイツも料理しか取り柄無いし」

洋介の言葉に、足を縫い付けられた。
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