理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
「アイツ…
全然、垢抜けないだろ?
だけど、あれでも一応、高校時代はわりと可愛いくてさ…
クラスのマドンナ的存在だったんだぜ?」

洋介の話に、

「ヤダ、嘘ぉ~」

ケラケラと、女性の笑い声が響く。


「まぁ、田舎の高校だからさ、レベル低かったんだろうな」

『ハハッ』と笑い飛ばして、話は続く…

「にしても…
就職してからは、疲れて窶れた、生活感丸出しでさぁ…

あれじゃ、女を捨ててるって言ってるようなモンじゃね?

まぁ実際、女としては欠陥品だしな」

その言葉に、ビクッと躰が震え、嫌な汗が背中を伝う。



『ヤメテ!!』



これ以上、何も聞きたくないのに…

「欠陥品って?」

吐き気がするほど、絡みつくような甘ったるい声が、話を掘り下げようとする。


「不感症ってこと。

メシ代の代わりに、わざわざ抱いてやってんのに、全然感じないどころか、痛がってばっか。

そのくせ、わざとらしく声上げて、イッたフリとかするんだぜ?

萎えるよな~」

「えぇ~!
やだ、ウケるぅ~!」

ゲラゲラと笑いあう二人の様子に…

バッと、壁から耳を離し、ふらふらと立ち上がると、この場を逃れたくてドアへと向かう。


ドアノブに手をかけると、勢いよく外側に引かれ、部屋に戻ってきた男性とぶつかってしまう。


「うわっ!!大丈夫?」

「すっ、すみません」

思わず顔を跳ね上げたけれど、涙で滲んだ瞳では、男性の顔はよく見えなかった。


「そんなに痛かった?」

いたわるような男性の声に、
『大丈夫です』
って返したいのに…

これ以上、口を開いたりしたら、涙と嗚咽が溢れそうで返事なんか出来ない。


フルフルと首を振り、泣き出す前に、急いで廊下に飛び出し…

玄関ロビーを駆け抜け…

目に入ったタクシーに飛び乗った。
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