理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
鍵業者への電話を切ると、落ち着くどころか、次第に不安が込み上げてくる。


…もし、酔っ払った洋介が突然訪ねてきたら?


鍵が開かないコトに腹を立てて、ドンドンとドアを叩くかもしれない。


怒った洋介が、酔った勢いで暴力を振るってこないとも限らない。


けれど、そんなコトよりももっと…
さっき盗み聞きした本心を、面と向かってぶつけられるコトの方がうんと恐ろしい。


いつかは消える躰の傷より、いつになれば癒えるのか想像の付かない心の傷の方が、うんと痛くて、恐い。


もしも洋介の口から、同じ言葉を直接聞かされたりし投げつけられてしまったら…

…そんなの、立ち直れない。



ここに居るのは、危険。


慌てて携帯を手にし、マキ先輩へかける。


コール音の響きが、繋がらない不安を煽る。


7コール目でやっと、

「もしもし?」

という声が、聞こえた瞬間…

「お願いです、マキ先輩!!
今夜、泊めて下さい!!」

思わず電話口でそう叫んだ。


マキ先輩は何も聞かず、代わりに…

「良いけど、晩御飯作ってね」

とだけ言って、アッサリ電話を切ってしまった。
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