理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
「今日…
洋介達の劇団の、公演日だったんです。

それで…
差し入れを届けようとしたら、洋介の楽屋から、女の人と話してるのが聞こえてきて…

洋介が私のコト、
『本当はたいして俺のこと好きじゃない』
って言ってたんです。

私なりに応援してたし、洋介の支えになってるつもりだったのに…
全然伝わって無かったんだなぁって、悔しくなって」

途切れ途切れの言葉に、嗚咽が混じる。


「実は、私達…
躰の相性も全然ダメで、
『食費代わりに仕方無く抱いてやってる』
って言われてて…

別に見返りなんて求めてなかったのに…


一緒に過ごした年月とか、洋介の言葉とか、何もかもが信じられなくなって…

失恋かどうかなんて分からないけど…

『とにかくもう、これ以上、一緒に居るのは無理』
って思って…

合い鍵使えないように、部屋の鍵を変えたんです。

そうしたら今度は…
酔っ払った洋介が、夜中に訪ねて来るような気がして…

酔った勢いで面と向かって本音をぶつけられるのも、機嫌を損ねて暴れ出すのも、怖くて、怖くて…

それで、急に…
ごめんなさい」

口にできたのは、本心の半分。


一番傷ついた『不感症』のコトだけは、いくらマキ先輩にでも、口に出来なかった。


全てを包み隠さず打ち明けるコトは出来ないし…
止まらない涙のせいで、上手く言葉に出来ていたかどうかも分からない。


けれどマキ先輩は、私の気持ちに寄り添うように頷きながら、黙って話を聞いてくれた。
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