理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
ヒック、ヒックと、しゃくりあげる続ける私に、ティッシュの箱を差し出してくれたマキ先輩が、

「それでどうするの?
休暇中、家に潜伏?
それとも傷心旅行?」

ようやく、口を開いて訊ねる。


「…やっぱり行きます。
留守にすれば、洋介もしつこく訪ねては来ないだろうし」

意を決して答えると、マキ先輩は満足げな笑みを浮かべ…

「良いんじゃない?
一晩中、グチりながら思いっきり泣いて気持ちを切り替えれば、傷心旅行だって楽しくなるかもよ?

まぁ、傷心なんて言葉を使わなきゃなんないほどの男だったとは思えないけど」

サラリと言ったマキ先輩に、目を見張ると…

「だって、そうでしょ?
あんなの、フリーターに毛が生えた程度の役者面したヒモ男。
しかもDV付き」

ピシャリと言い当てられてしまう。


「そんな…
私、暴力のコトは、一度も…」

首を振って、否定してみても…

「分かるのよ、ケガの仕方で。
転んだのか、ケンカなのか、それとも一方的になのか…ね。

旅行を勧めたのも、距離を置けば自分の置かれてる状況に気づいて目が覚めると思ったからよ。
まさか二人分の旅費を負担してまで、一緒に行くなんて思わなかったから。

でも、そのまさかだったわ」

マキ先輩は、はぁ…と深くため息をついた後…

「でも、彩にとっちゃ大事な初カレだったのよね…
キツい言い方して悪かったわ。

だから今夜は…

洋介君のドコが好きだったのか…
彩のドコを好きになってくれたのか…
彩に足りなかった物は何か…
一緒に、とことん考えましょ。

で、どん底まで落ち込んだら、新しい自分探しに挑戦して…

次に再会した時、地団駄踏む程のイイオンナになって、見返してやりなさい。

私も昔、そうやって乗り越えたわ。

…予想以上に強くなりすぎちゃったけど」

そう言って、肩をすくめてみせた。


「ねぇ、彩…

せっかくだから、違う自分に生まれ変わるつもりで、傷心旅行を楽しんでみたら?

一夜限りの『オトナノアソビ』だっていいじゃない!

違う自分を演じて、経験したことないコト、やってみたら?

新しい未来が開けるかもよ?」

マキ先輩は意味深に微笑み…

「カンパ~イ」

と言いながら、ワイングラスを小さく鳴らしてみせた。
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