理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
…けれども、そんな平凡な望みですら、現実には厳しい。


短大を卒業して、社会人5年目の私、

坂本 彩(サカモト アヤ)は、25歳。


チラホラと同級生の結婚話が耳に入る度…

『そろそろかなぁ』って淡い期待を抱いてしまう。


けれど…

大学から始めた演劇にハマってしまった、彼氏は…

無職。


就職もせずに、バイトしながら、私にはよく解らない、

『あの有名演出家のお弟子さん』

とかいう演出家が主宰の、小さな劇団で夢を追っている。


『夢を追ってる』
なんて、聞こえはいいけれど…

正直なところ、
『売れるのなんて一握りの人だけなんだから!』なんて思ってしまう、自分もいる。


けれど…
水泳一筋だった洋介が、推薦で大学に入学した途端、肩を壊してしまって…

以来、思うように泳げなくなり、タイムは伸びないまま、次第にプールから足が遠退いていった。


穏やかだった性格も荒んでしまって、言葉も乱暴になり…

気に入らないコトがあると時々、手をあげるようになったのも、この頃から。



『演劇は、そんな、打ちひしがれて荒れる日々の中で出会った、新たな希望だ』

そう言った洋介の言葉通り、機嫌のいい日も増えてきて…

最近は随分、昔の洋介に戻ってきたような気がする。


それに…
自分には出来ない事を、やろうとしているコトが羨ましくもあるから…

友達や、マキ先輩には呆れられてるけれど…

彼女としては、応援しないワケにはいかないんだよね。
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