理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
「おいし~い!」

クロワッサンは、香りだけでなく、食感も味も素晴らしかった。


思わず、

「どうやったら、この味が出るのか教えて欲しいなぁ」

と呟くと、イッセイは、ニコニコしながら…

「パン焼くのに興味あんのん?」

と、尋ねてくる。


「うん。
自分でもパン焼くのよ。

余った前の晩のおかずで、惣菜パンにしてお弁当に持って行ったり、差し入れにしたり…」

そこまで言って、『…しまった』と、思い出してしまう。


早く記憶から、消さなくちゃ。


私の焦りに、イッセイは気付いたようだったけれど、それ以上言葉が続かずにいると…

「へぇ~。

あんなぁ…
このホテルは元々、白のみで埋め尽くされた、フランスの古城『シャトー・ブラン』を改築したものやってん。

せやから、『オテル・ドゥ・ブラン』つまり…
『白いホテル』いう意味の、フランスのホテルなんや」

と、軽く流して話題を変えてくれた。


「それで、どこも白く塗られて…
クロワッサンは、本場の味なんだぁ」

周りを見渡して、確かに白で統一されていると、改めて思う。


「ココは、日本にある支店やし…
フランスの本店とは、外観はだいぶ違うけど、内装はよう似ててん。

軽く頷いて、そう言ったイッセイに、

「へぇ~、詳しいんだね」

と、返すと…

「うん、まぁ。
以前、フランスで公演した際に、狂言を気に入って下さったオーナーが…
京都に出店することを、決められたから。

今でも、仕事でもプライベートでも、お世話になってるんだ」

なんて、驚くようなコトをサラリと口にした。


それで急だったのに、あんな部屋が用意できたんだ…

なんて、妙に納得してしまう。


でも、フランス公演って…?


そう言えば…

歌舞伎役者のナントカって人も、フランス公演したって…

ニュースで流れてたような気がする。


やっぱり、伝統芸能を受け継ぐ人達って…

世界に向けて、日本をアピールする為に、グローバルに活躍してるんだなぁ…って、感心する。


そんなすごい人と、本当に観光なんかして、大丈夫…なの…かな…?
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