理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
キスに夢中になったせいで、落としてしまった服を再び拾い集め、浴室でシャワーを浴びる。


本当は下着を着替えたかったけれど、自分の荷物はあの部屋に置いたままだから、後で着替えるコトにして取り合えずそのまま身につけた。


浴室のドアを開けると、焼きたてのクロワッサンの香りに包まれる。


「良い香り~」

嬉しくなって笑顔を向けると…

見たコトもないほどに優しく、慈しむ様な穏やかな表情のイッセイが、私を見つめていた。


「な…に?」

恥ずかしくて俯くと、手を引かれて、ギュッと抱き寄せられる。


「可愛い。
なんでそんなに可愛いん?」

「…イッセイ、どうしたの?」

何もしていないのに、急に何を言い出すんだろうかと、ドキドキしながらイッセイの胸を押して距離を取ると、

「…朝食でそないに喜んでくれるんやったら、ランチも楽しみやなあ」

ニコニコと上機嫌で頭を撫でてくる。


「そう?」

その仕草にトキメキながらも、隠そうと素っ気ない返事をしてみると…

「うん。上手く餌付けできるかどうか楽しみやな」

からかうように、クックックと、声を殺して笑うイッセイ。


「餌付けって…餌付けってなによ!?」

口を尖らせて抗議すると…

唇を重ねてきて、目が合うとニッコリ笑う。


唇の先をくっつけたまま…

「餌付けに成功したら、ウチに来てくれる?」

そう口にしたイッセイは、漆塗りの瞳に私をしっかりと捉えて映し…

情熱的で、真っ直ぐに見つめてくる。


けれど、少しだけ不安げに揺れていて、セツナげに見えたのは…

私の勝手で都合のいい、思い込み…かな?



『どうせ、ただの言葉遊び』
と思いつつも、つい頷けば…

微笑みながら、抱きしめてきたイッセイが…

まるで私の唇を抱くかのように…

優しく、甘く、けれども激しいキスをしたから…

イッセイになら、『軽く抱かれ』ても良いかな…なんて思ってしまった。


けれど、躰を離したイッセイは…

「コーヒーと紅茶、どっちが良い?」

なんて…

まるで何事も無かったかのような素振りで、ちょっぴり寂しくなる。


彼を欲しがってるのは、私だけなの…?


それとも、こんな駆け引きが、オトナのアソビってコトなの…?


ギュッと締め付けられるような、セツナイ胸の痛みを解してくれたのは…

「さぁ、姫様。
こちらのお席にどうぞ」

そう言って、ヒョイと抱えあげて席に下ろし…

手の甲に口づけてきた、イッセイの優しさだった。
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