理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
備え付けのバスタオルは、ふんわりと柔らか。


躰を拭きながら、顔を上げると…

洗面台の大きな鏡に写った、自分と目が合う。


「…抱かれたんだよね?私…」

改めて呟くと、涙が一粒流れる。


これは、後悔なんかじゃなく、喜びの涙。


洋介しか知らずに、洋介とのコトが全てだった私に…

新しい世界を教えてくれたことへの、感謝の涙。


そして…

生まれ変わった自分への、おめでとうの涙。


オンナの喜びを知って、一つオトナになった、自分へのお祝い。


「ふふふっ」

一人で照れている自分に、思わず笑みがこぼれると…

ふと、胸元の赤いハートマークに気づく。


「何、コレ?」

鏡に身を寄せて、よく見てみる。


楕円形をズラして、二つ重ねて作られた…

ハート型のキスマーク。


イッセイは、ひょっとしたら、ロマンチストなのかもしれない…

なんて思いながら、そっとハートマークを撫でた。


たとえ、3日間だけの関係だとしても…

こんな風に私を喜ばせ、幸せな気持ちにしてくれるイッセイに…

確実に惹かれているのを感じるけれど…

洋介と別れてまだ3日。

イッセイと出会って、たった一晩。


きっとこれは、恋じゃない。


今を楽しむ、オトナのアソビ。


旅行中だけの、夢の時間。


ちゃんと割り切っておかなくちゃ…

ヘンに勘違いして、調子に乗ったりしたら、傷つくだけ。


バシャバシャと冷水で顔を洗い、思わず込み上げそうだった涙を洗い流す。


「着替えて、出かけよう!!」

自分に声をかけて、着替えの詰まったスーツケースを開いた。



レースがふんだんにあしらわれ、同じ素材のリボンを結ぶタイプのワンホルダーのピンクのキャミソールに…

編み目の大きな白い鉤針ニットを重ねて…

膝丈の白のフレアスカートには、小さなバラの刺繍が全体に散りばめられている。


残暑が厳しい京都の夏を考慮して、汗で落ちないように、ウォータープルーフの化粧品を選び…

白のストラップのミュールに脚を通し…

白の皮と天然色の、籐のコンビの籠バッグを手にして、部屋を出た。
< 68 / 151 >

この作品をシェア

pagetop