理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
「旅行行くのはいいけど、俺、カネ無いよ」

洋介の声に、ハッと現実に戻り、

「ううん。大丈夫!!
私の来月の夏のボーナス出てからにすれば良いし…

それに実は、ちょっとだけど、宝くじが当たっちゃったんだよね!」

結婚費用にと思って、黙って貯めておくつもりだったけれど、洋介に賛成して欲しくて、つい口を滑らせてしまうと…

「マジで!?
いくら?」

急にドタドタと足音をたてて、洋介がキッチンにやってくる。


「…ちょっとだよ。
20万くらい…」

なんだか嫌な予感がして、0を一桁ごまかす。


「なんだよ。それだけ?
期待して損した」

チッと舌打ちしながら、キッチンを離れる洋介に、

「…ごめんなさい」

いつの間にか口癖になってしまった、謝罪の言葉が口をつく。


思わず『本当は…』って、正直に切り出そうとしたその時…(。>д<)、

「まぁ、いいや。
とりあえず5万貸しといて」

洋介の言葉に、食器を洗う手が止まる。


「えっ?なんで?
今、旅行の話してたじゃん。
洋介の分に充てるって…」

言い終わらないうちに、頭部に鋭い痛みが走る。


髪の毛を掴まれ、グイっと引き寄せられると、私の顔の横に冷たい表情の洋介の顔が並ぶ。


「ギャアギャア、うるせぇんだよ。
働いて手に入れたわけでもねぇ、ただのあぶく銭だろ?」

乱暴に離された勢いそのままに、シンクの淵にお腹をぶつけ、

「つっっっ…」

声にならない痛みを抱えて蹲る。


じわりと一歩前に踏み出された洋介の足元が視界に入り、恐怖で逃げようにも、キッチンシンクは私の背中にピッタリとくっついていて、もう一歩も下がれない。


せめてもの抵抗に、顔を横にそむけてグッと奥歯を食いしばる。


と…

洋介が優しく頭を撫で、首元に絡みつくように抱きしめられる。


「???」

何が起きたのか理解できないまま、呆然としていると…

耳元に寄せた洋介の唇から、ちょっと掠れた優しい声が、吐息と共に入ってくる。


「夏にある公演の前にさ、皆でメシ食いに行こうと思ってさ。

ほら、ビンボー劇団じゃ、なかなかマトモにメシ食えないだろ?

俺みたいに、可愛くて理解があって、料理上手の彼女がいるわけじゃないし。

それにほら、他の劇団からの参加とか…

話題作りの為とはいえ、ゲストキャストとかもいるから、親睦も兼ねてさぁ~。

全部オゴるなんて出来ないけど、少しでもカンパしとけば、俺の株も上がるし。

もちろん、そうさせてくれる、優しい彼女の株だって上がる。

だから、いいだろ?
なっ?」

ふっと、吹き掛けられた吐息に…

ゾクリと、甘い痺れが背中を走る。
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