中指斬残、捌断ち儀


「……」


「見つけたのは隣人だったか、見るも無惨な痩せ細った体ですぐに赤ん坊は施設に預けられたが、以来、赤ん坊は笑わなくなった。何年も、何十年経っても。赤ん坊の時の記憶があるのか、もしくは預けられた施設の仕組みを――捨てられたと悲観に走ったのか、どちらと知るよしもないが、ともかくも、成長したその赤ん坊――少年は笑うことができなかった。大人になったとしても、だ」


「……」


「しかしながら、笑うことができないその男でも、同じ施設で育った友人の前ではいくぶんか柔らかい表情をするんだ。分かるか?笑うことができない男の、その『柔らかい表情』というものこそが男にとっての『喜びの表現』なんだよ。

なればなぜ、その友人の前だけで『喜びの表現』ができたのか?問うまでもなく、単に『楽しかったから』だ。


その友人との会話が、いやいや、一緒にいること自体が『楽しい』んだ。『喜びの表現』をしてしまうほどに。友人はその男を何よりも大切に考えていたからな、そんな想いが言葉に滲み出るほどに男を『笑顔にさせていた』のだろう」


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