夜兎

本編Ⅱ

① ビンタ

バシｯ…

九条篤志の頬を打つ、強烈なビンタ。

叩いたのは美知瑠だ。

別に、彼が何か悪いことをしたわけでも、彼女が怒っているわけでもないのだが

「ついつい」やってしまった。


九條「…ｯ痛い。」

うっすらと目を開ける篤志。

目の前には美知瑠がいた。数時間前に自分を痛めつけた張本人だ。ビンタよりも、殴られた記憶が先に立つ。

無意識のうちにﾋﾞｸﾋﾞｸと身体が震える。

美知瑠「そんなに怖がらなくても…。てか…いや、やっぱ怖いか。そうですよね。ごめんなさい。」

なんだか急に乙女に戻っている美知瑠。

篤志の方も、先程とは様子が違うことに戸惑う…。


九條「あ〜えっと…。いや、その…なんていうか。こちらこそ、すみません。今なんか、よく分かってなくて。」

そりゃそうだ。

だいたい ファンの子が、つい先程まで自分達を殴るよう指揮していて、しかもそんな人に、また急にビンタで起こされたのだから

訳が分からなくなるのは当然だろう。


美知瑠「そっか。まぁそりゃそうですよね。質問は受け付けますよ。」

九條「じゃ じゃあ…一個づつ、良いですか？」

美知瑠「はい。」
真面目な顔で頷く。

九條「ではまず、ここは何処ですか？車の中…なのは見当がつきますが。」

美知瑠「この車は私の部下が使っている車です。今はだいたいそうですねぇ… 『きなこ』の劇場から40分くらい走ったところですかね。高速道路です。ちなみにもうすぐｻｰﾋﾞｽｴﾘｱに着きますよ。」

九條「はぁ。俺は、どこに連れて行かれるんですかね？」

美知瑠「私の住んでる所。」

九條「俺を連れて帰って、それでどうするんです？」

美知瑠「さぁね〜。まだ決めてません。でもまぁ、殺さないし、取って食べるような真似もしませんから。そこは安心してください。」

九條「物騒なことをｻﾗｯとおっしゃいますね。」

美知瑠「ｴﾍｯ♪まぁね〜。」

褒められてはいないが、笑ってごまかす。美知瑠らしい行動だ。


九條「他の皆は… きなこの皆は、無事ですか？」

美知瑠は黙って頷いた。

九條「そうですか…。なら良かった。」

美知瑠「他の皆さんは、ちゃんと劇場にいらっしゃいます。傷の手当てもさせていただきましたし、ご無事だと思いますよ。ただ丸居さんは…。」

九條「丸居さん… そうだ!!丸居さんはどうなってるんです？」

必死になって聞いてくる篤志。