茜色の葉書

テントウ虫

 駅近くに公園を見つけ、巻いたハンカチを一度とって水で湿らせてから怪我を拭く。

「しみる?」

「ううん……」

 弓華はスカートを膝の少し上までたくし上げ、裸足になっている。寒いかもしれないが、最初に水で軽く傷口を洗い流すときに足先まで水がしたたって靴が濡れてしまうといけない。

「寒い?」

「ううん……」

 さっきから彼女はあまり話さない。

 電車に乗れなかったことを気にしてるわけではないようだけれど。なんといったらいいのか、変な言い方かもしれないけど不思議そうな表情をしている。

 傷をジッ、と見て。

「ゴメンね。ハンカチ」

 傷を拭き終わると彼女はそういった。

「だからいいって」

 ハンカチを洗い流してから、また傷口にあててずり落ちない程度にしばる。

 それから僕たちは公園のテントウ虫ドームの上に座って、何をするでもなく景色を眺めた。

 といっても、眺めるほどの風景はそこにはなかったけれど。

 そういえばさっきまでの漠然とした、それでいて強烈な不安感はいまはもうない。

 あれはなんだったんだろう。

 とにかく電車がなくなった以上、きょうはここで夜を明かさないといけない。

 単純に金銭的なことを考えたのと、なにより彼女と“泊まる”ということに抵抗、ではないが引け目を感じたからだった。
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