茜色の葉書
 大きいとも小さいともいえない街を、地図を頼りに僕らは歩いていたのだけど、

「ほんと、だいじょうぶ?」

 どうも弓華の様子がおかしい。

 肌の色は最初に見たときから透き通るように白いとは思っていたいたけれど、どちらかというといまは青白い。

 けれど本人はいたって、

「心配症ね。なんならこの商店街抜けるまで競争してもいいわよ」

 そういって笑い返す。

 その言葉が僕にどれほどの不安を生んでいるか気づかずに。

 けど、何か……何かが引っ掛かっていた。

「どうかしたの? 涼くん」

「いや、いこう。もう少しだ……」

 一歩一歩が妙に重い。

 開店にはまだ時間がある商店街は異様な静けさをはらんでいて、僕らの足音だけが無機質に響いていた。

 通りを挟んだ店をつなぐように造られたアーチ型アーケードが仄暗い洞窟を連想させ、出口へと向かっているのに僕にはまるで洞窟の奥深くに潜り込んで行っているようだった。

 その奥には──

 唐突に陽の光が瞳を刺し、僕は眩暈を少し感じながら、辺りを見回した。どうやら商店街を抜けたらしい。

 と、いつのまにか隣の弓華がいない。

 彼女は僕よりも遥か前を歩いていた。

 不安がまた僕の胸を締め付ける。

 それは恐怖にも似た感覚で、僕は走り出さずにはいられなかった。

 遠くに見える彼女の姿が朧気な霞のように感じられ、僕は全力で走る。

 けれど、近付くどころかその距離はどんどん引き離されていき、ついには見えなく──

「涼くん?」

 気が付くと僕は彼女の隣にきていた。

 全身からドッ、と冷たい汗が吹き出す。痛いくらいに動悸が激しい。

「どうしたの? 気がついたら後ろのほうで立ち止まってるし、かと思ったら全力疾走してくるし……」

「あ、いや……靴の紐がほどけちゃって」

 心配そうな顔。

 気遣ってくれているのだろう。

 たったそれだけのことが、うれしかった。

 無理に演じなくてもすむ、意識しなくても、彼女は僕のことを気にかけてくれる。

 うぬぼれでもいい。

 自信過剰でもいい。

 そう思える存在が、僕にはいままで……。

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