茜色の葉書
 京介は自分の横にいた彼女に部屋の中で待っているよういうと、ドアを閉めて階段に腰かけた。

 僕はすぐにでも彼女を追いかけたかったのだけれど、彼がそれを止めた。

「わからなかったな……」

 膝の上に肘をつき、組んだ手の甲に顎を乗せ呟く。

「そういわれると、あの頃と髪の長さが違うくらいで外見はあまり変わりなかったな」

「じゃぁどうして、すぐに彼女だと気付かなかったんですか」

 彼はちょっと考えた後、不確かな答えを手探りするように答えた。

「彼女らしくなかった……とでもいえばいいのかな。さっきの彼女はあまりに、その、なんというか、存在感がなかったんだ」

 その言葉を聞いてハッ、とする。

 この人も僕と同じことを感じたのだ。

「弓華はとりわけ元気とか活発って感じの娘じゃなかったけど、存在感だけは人一倍あったんだ。積極的に行動するタイプじゃないけど、気が付くと彼女が中心になっていたり、そんな感じだ」

 あれ? それって、どこかで……。

「涼くん、っていったね」

「はい……」

「僕が、弓華を忘れて他の娘と付き合っていることに腹がたつかい?」

 無言で頷く。

「だろうね……でも……」

 視線を階段の狭い踊り場に向け、

「弓華は、僕のことを好きだったワケじゃないんだ。僕に好意を持ってはいたけれど、それとは別に、常に僕に誰かの面影を重ねていたふしがあった……」

 懐かしげな、そして寂しげな吐息をフッ、と吐く。

「いつ、どこだろうと、自分は自分。けど、今の自分はこの瞬間にしかいない……」

 その言葉は。

 京介は立ち上がり、ドアに手をかけ、

「弓華は高三になったとき、もともと弱かった身体がさらに悪くなって外国の病院に入院するために日本を離れたんだ。あの様子だと、もう治ったんだろうな」

 身体が弱い……?

「さて、そろそろ戻らないと。今度はあいつが泣くから」

 そして彼はドアの向こうへと消えていった。

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