茜色の葉書
 唇を重ねる。

 触れることはできなかったけど、確かに。

 永い、永い刻を経て、やっと手に入れることができたもの……。

 ほんの一握りの素直な自分が与えてくれる何ものにも代えがたいやさしさ……。

――たとえそれがつかのまのだとしても……。

 スッ、と身体を引くと、待っていたように彼女の身体は透け始め──

「…………」

――そして、消えた。

――いままでの中で、一番の笑顔を浮かべたまま……。

  波間に漂う一枚のハンカチを残し……。

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