リズ×望-お前の望むままに-
つまり、リズヴァーンの背中が見える位置。

(ダメ!見られる!)

そう思った望美はすばやく、後ろからリズヴァーンの耳元に、顔を寄せた。

「先生の背中に傷があるんです!」

「傷?」

「そうです!とにかく、今はシャツを着ていてください!」

望美は真っ赤になりながら、リズヴァーンに小さな声で囁いた。

その説明で解ったのか、リズヴァーンが今脱いだシャツに、再び腕を通し始める。

望美はほっとして、ゆっくりその背中から離れると、そこには…

赤い線が数本、綺麗に浮かんでいた。

望美によってつけられた爪あとが、はっきりと残っていたのだった。

あまりにリアルなその線から、咄嗟に目を逸らすと、困ったように苦笑している将臣と、目が合った。

「―――っ!」

(見られた!!!)

恥ずかしくてたまらない望美は、そのまま腰を落とし、ぱっと下をむいた。

自分の情事が人に知れてしまうほど、恥ずかしいことはない。

しかも、それが幼馴染だと、なおさらである。

(どうしよう!!!)

望美がパニック寸前になっていると、ぽんっと大きな手が頭に置かれた。

「将臣、私は望美と話がある。」

「あっ?じゃあ、俺は先に行ってるぜ。」

将臣は何事もなかったかのように、二人を残し、海へと歩いていった。


「………。」

「望美、顔を上げなさい。」

小さく正座をしている様は、まるで怒られている子供のよう。

リズヴァーンを見上げる望美は、恥ずかしさから泣きそうになっていた。

「…先生。将臣くんに見られちゃいました。」

ポツリと小さな声で、望美は呟いた。

「何を見られたというのだ?」

「…先生の背中に…爪あとが…。」

望美の頭にさっきの背中が思い出されて、ますます、顔を赤らめる。

リズヴァーンは、やっと望美の突飛な行動の理由がわかり、笑みを浮かべた。

「隠さずとも、よかったのではないか?」

「だっ、だめですよ。将臣くんに見られちゃうんですよ?」

「問題ない。」

「ありますよぉ…。」

もう見られているのだが、そのまま曝しておくわけにもいかないし、それに、これから、どんな顔をして、将臣に会えばいいのか、望美は困りきっていた。

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