リズ×望-お前の望むままに-
「離して下さい!怒りますよ!?」

仄かに頬を染めながら、どうにかその手から逃れようと、体を捩る。

「しかたなかろう。私は酔っているのだ。」

平然とした顔で、何を言っているのだろう?

いつものリズヴァーンにしか、見えないではないか!?

そう思いつつも、相手が『酔っ払い』なら、こっちは『まとも』なんだからと、強気に出る。

「酔っ払いなら、酔っ払いらしく、とっとと寝てください!」

そう言えば、ぴたりと止まる、いたずらな手。

(よし!この調子だ。私!)

それ以上動かないのをいいことに、望美はくるりと反転して、リズヴァーンに背を向けた。

そして、そこから逃れようと一歩を踏み出す。

が、その腕が開くこともなく、行く手を阻む。

そして、艶のある声で囁かれる。

「ならば、運んでもらおう。」

「………。」

後ろ抱きにされながら、望美は口を閉ざした。

(…これは、私に言ったの…よね?)

190cm以上ある男を、寝室まで運べと?

酔っ払いで、しかもよからぬ事を考えていそうな男を?

(私、今、危ないんじゃないの…かな?)

今更、貞操の危機とは言わないが、このまま言うことを聞いていたら…

きっと明日は大変なことになる。

絶対になる。

それは、避けたい。

(ど~しても、避けなきゃ!)

「私にはムリです。」

微かに頬が引きつりつつあるが、望美はきっぱりと言った。

「自力で、お願いします。」

「酔った者が、一人で歩けると思うか?」

「…思います。」

(って言うより、思わせてください!)

望美は祈るような気持ちで、リズヴァーンの返事を待った。


「………。」

「………。」

静かに時が過ぎていく。

(なんか、言ってください!先生!)

リズヴァーンが自分の後ろにいるので、その顔が見えない。

今、何を思っているのか、考えているのかが、分からない。

でも、振り返る勇気もなかった。


『酔っ払いなんて、何にも考えてないのよ』


ため息交じりでそう言っていた母。

今はそれを信じたい。
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