リズ×望-お前の望むままに-
望美はリズヴァーンの両手を取って、ゆっくりと引っ張る。

(両手を握っていれば、何もされないだろうし)

後ろを向きながら歩くのは、ちょっと不安だったけど、このままでいられるよりはずっといい。

「今も、ちゃんと見ていますから、早く寝ちゃってください。」

足を踏まれないように、転ばないように気をつけながら後退していけば、リズヴァーンの体が静かに動き始めた。

(このまま、寝室へ…)

何も起きないことを願いながら、短い距離を埋めていく。

「…何故、寝かそうとする?」

笑みを浮かべながらも、不思議そうに、リズヴァーンが望美を見つめた。

「酔っ払いは早く寝かせないと、困ったことになるって、お母さんが言ってました。」


酔ったお父さんが、お母さんにわがまま言っているのを見たことある。

お母さんは少し怒りながら、『はい、はい』とそのわがままを聞いていた。

大変そうだなぁ、なんてあの時は思ったけど、まさか自分がそうなるとは思いもしなかった。

(愛情のなせるわざ…なのかな…)

寝室のドアを開けながら、望美はクスリと笑った。

「だから、寝てください。」

『ちゃんと介抱しますから』と望美は笑顔で、リズヴァーンを寝室に押し込めた。


そしてそのままベッドまで連れてきて、腰を掛けさせた。

上着を丁寧に脱がせ、ネクタイも望美が取った。

「今、お水持ってきますから、おとなしく寝てくださいね。」

身を翻して部屋を出て行こうとすれば、何故かその手を掴まれた。

「先生?」

リズヴァーンの顔を、小首を傾げて見つめる。

「何処へ行く?」

「だから、お水を入れに…。」

『台所まで』と言いかけていたのに、リズヴァーンは最後まで聞くことなく、望美の手を引っ張った。

そして、そのまま膝の上にちょこんと座らせた。

腰を抱えられ、そこから退くことも出来ない。

望美は困ったように、呆れたように愛しい人の名を呟いた。

「先生…。」

(また、さっきのを繰り返すの?)

そう思いつつ、再び強気でいこうと決めたとき、上から降ってくる、大好きな声。

「…目を、離してよいのか?」

優しく囁かれるその言葉に、望美は黙り込んだ。
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