リズ×望-お前の望むままに-
「では、お前は身支度を整えなさい。」

笑って部屋を出ようとするリズヴァーンに、望美が慌てて声をかけた。

「先生。何で半刻なんですか?」

望美はリズヴァーンを見つめながら、不思議そうに小首を傾げた。

「先ほど、誰かが結界を破った。」

「え?それって…。」

「…景時だろうな。」

小さく笑いながら話すリズヴァーンに望美はきょとんとした。

…いつの間に…。

でも何で、景時さんが結界を破ったんだろう?

いつもみたく先生に結界を開いてもらうんじゃないの?

「あと二刻もしないうちに、ここに着くだろう。」

さらりと、何事もないように語られるその言葉に望美は、はっと我に返った。

…あと、二刻って事は…二時間…

え!?二時間!?

「それって、本当ですか!?」

驚いたように望美は、声を上げた。

「そうだ。」

「だって、まだ、支度とかしてないですよ!?」

褥に両手をつき、望美は体を前に傾け、リズヴァーンに向かい声を荒げる。

自分は今、褥の上に座っていて、先生も私も単姿。

まさかこんなカッコで、誰かを迎えるなんて出来ない!

「だから、早く身支度を整えるようにと言っている。」

「そっ、それはそうなんですけど…!」

慌てふためく望美に、リズヴァーンが笑みを湛えながら、静かに呟いた。

「落ち着きなさい。今からで十分に間に合う。」

諭されるような優しい声に、望美はふっと考えを巡らせた。

…それも、そうだ。

先生がご飯作っている間に、私が身支度を整えて。

ご飯食べて、片づけを二人ですれば…。

…まぁ、二時間もあれば、どうにかなりそうだケド…。

もっと早く言ってくれれば、ゆっくりご飯が食べれるのに…。

と、そこまで思って、望美はあることに気付いた。

「って、いつ気付いたんですか?」

結界が破られたことに。

さっきまで、その…。

…あんなことしていたのに…。

「…続きは皆が帰ったあとにと、お前が言ったときだ。」

苦笑を湛えながらリズヴァーンが言えば、望美の顔が余計に赤くなった。

望美が恥ずかしくて俯けば、自分の肌をちらりと見た。

そこにあるのは、先ほど付けられたであろう、桜色の花跡。

いつの間に…と驚く前に、さっきの行為が望美の頭に蘇った。

…先生の蒼が私の瞳の色に染まったとき…。

恥ずかしいけど、ちょっとうれしかったなぁ…。

などと思ってしまい、恥ずかしくて顔を上げれない。

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