リズ×望-お前の望むままに-
「…そのときに言ってくれれば良かったのに…。」

少しだけ拗ねたように呟けば、何故かリズヴァーンが望美から顔を背けた。

「…そうしたら、ご飯だって作れたかも知れないんですよ?」

そ~っと、望美は視線を上げ、柱の横に立つリズヴァーンを上目遣いで見た。

「………。」

一向に視線も返事も返さないリズヴァーンに、望美は少しだけ強めに、声をかけた。

「先生。聞いてますか?」

望美の非難めいた声に、リズヴァーンがポツリと吐息のように言葉を漏らした。

「…言える訳がなかろう…。」

「…何でですか?」

望美は訳もわからずに、きょとんとした顔を向けた。

そんな望美をちらりとリズヴァーンが目の端に捕らえる。

そして、仕方がないと言った風に、ため息と共に言葉を紡いだ。

「…私はお前のあの瞳に弱いと、言ったはずだ。」

リズヴァーンがゆっくりと振り向き、視線が真っ直ぐに望美に注がれる。

「あの瞳に見つめられ、…他が見えなくなった…。」

その言葉に、望美の中にある想いが蘇った。

「…それって…。」

つい、口をついて出た声に、リズヴァーンが苦笑を浮かべた。

自分も感じたことのある、想い。

まさか、先生も感じてくれたの?

周りに何があろう、どんな状況だろうと、その一切が消えてしまう。

ただ、目の前にいる先生のことしか、わからなくなってしまう。

心のすべてが先生で染まる、あの瞬間。

そう、あれは、まるで…

「…お前に心を奪われたのだ…。」

望美の思い描いた言葉が、そのままリズヴァーンの口から声として音になった。

囁くような声が、甘く望美の心に溶けていく。

呟かれた言葉は、まるで秘密の告白のようで。

それも、自分の想いを人の口から聞いているような、そんな気分。

共有している想いのはずなのに、それがなんとなく気恥ずかしくて、望美は黙ってうつむいてしまった。

妙に甘くて、くすぐったいような雰囲気が部屋全体に広がる。

「………。」

「………。」

何も音のない空間で、望美は声を出すのも顔を上げるのも躊躇されて、褥に座ったまま、きゅっと自分の衣を握った。

その沈黙を破ったのは、小さく息を吐く音。

望美がぱっと顔を上げ、その音に視線を向けると、リズヴァーンが優しく笑っていた。

その余裕のある笑顔に、もとの空気が部屋に広がった気がした。

そして、微かに聞えた布の擦れる音と共に、リズヴァーンがゆっくりと部屋から出て行こうとしていた。

「ぁ…。」

つい口から零れた小さな望美の声が届いたのか、リズヴァーンの足が止まった。

望美は何を言ったらいいのかと戸惑いながらも、口を開いた。

「…あの…。何処へ…?」

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