リズ×望-お前の望むままに-
「朝餉を作る。お前も支度をしなさい。」

いつものように笑顔で呟かれる言葉は、普段と変わらない音で望美の耳に届いた。

だけど、一瞬金色の髪の間から見えたその耳が、赤く染まっていたことに気付くと、望美は、ふっと、笑みを浮かべた。

「…はい、先生。」

頬を染めたまま、うれしそうに柔らかな声で望美は返事をした。

「………。」

何か言いたそうに佇んでいたリズヴァーンだったが、そのまま黙って部屋から消した。

その姿を笑顔で見送った望美は、そっと着物の袷に両手を置いた。

いつもより早い鼓動がその手に伝わる。

…先生が私で心をいっぱいにしてくれたんだぁ…

そう思うと、うれしさがこみ上げてくる。

そして、あんな風に耳を赤く染める先生がいること。

それが、うれしくてたまらない。

いつも余裕な顔で、私を翻弄するくせに、時々見える青年のような心。

ひょんなことから零れ落ちる、真っ直ぐな言葉。

先生の目を通して語られる言葉も甘いけど。

先生の心から溢れ出た言葉は、もっと甘く、望美の喜びを誘う。

同じ想いが、お互いの心にある。

望美はぎゅっと袷を掴み、今のしあわせをその胸に閉じ込めた。

そして…。

「よし。早くしたくしなきゃ。」

そう言いながら、望美はにっこり笑って立ち上がり、支度をし始める。


いつもと変わらない一日の始まりなのに。

ほんの少しだけ、今日という日が特別に思えた。

そんな、ある日の朝。



後書き→

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