七物語
「……ねぇ…腕って出したっけ…?」
若いカップルの女性がそれに気づいて言った。
「……いや…出してないはず…」
彼氏がその腕を見ながら言った。
まるで今にも地上に這い出してきそうな、そんな気がしてならなかった。
ふわふわとした雪の上に腕だけが存在感を放つ…
「……と…とにかく埋めましょう…!」
「…いや……このままでいいです…」
背後から氷山の声を遮るように夫が現れた。
「………きっとこれは私と手を繋いでほしいんです…」
夫は哀しい表情で死体に近づき手を差し伸べた。
「……マサコ………うっ…」
そっと妻の手を握ると、突然の死別に泣き出した…
ついさっきまでは一緒に雪山の頂上を目指していたのに……
久しぶりの旅行だったのに…
いろんなことを思い出せば出すほど辛さが涙となって頬をつたる…
氷山にとってはその光景が不気味に見えて仕方がなかった…
そんなことよりも早く山小屋へ戻りたい…
それしか考えてなかった…