きみを好きになる瞬間

こつこつ、とアスファルトとローファーがぶつかる音。
その音を聞きつつ、夕暮れが二人分の影を伸ばすのをぼんやりと見ていた。



ああ、ウォークマンでも持ってくればよかった。



心の中でため息を吐くと、すっと結生が私の隣に来た。

そのことに文句を言ってやろうと口を開いたけど、何も言えずにそのまま口を閉じた。



結生が、イヤホンを控えめに差し出してきたから。



なんで。
なんで何にも言ってないのに結生は私の考えてることがわかっちゃうんだ。

昔からそう。
中学生のときコンビニに寄り道して帰ろうと誘ったときも、私がちょうど食べたいと思ってたアイスを買ってきたり、

嫌なことがあったときも、何も言わずに私の頭を撫でたり。



結生がモテる理由は本当はわかってるんだ。
私が一番知ってるに決まってる。

だって、小さい頃から結生がいなかったことはないんだから。





私は差し出された結生のウォークマンを受け取らなかった。

少し残念そうな結生を確認しつつ、今度こそ開いた口から声を出した。



「…私が左のイヤホン借りるから、半分こで聞こう」


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