きみを好きになる瞬間
「…変なの」
独り言のつもりで呟いたのに、咲に食い付かれてしまった。
「だからー変なのは長谷川だって。なんでこんな完璧な北村くんと付き合わないのさ」
手をひらひらさせて咲は私を珍しいものでも見つけたかのようにじろじろと見てきた。
なんでって言われても困る。
よく小説とかであるじゃないか。呼び出し受けたり、嫌がらせされたり。
私はそんなのはごめんだって何回も説明してきたはずだけど。
小説の中だけならいいけど、実際に起こりうることだし、女子という生き物は執念深くてめんどくさい。
「結生が私のこと忘れちゃえばいいのに」
「それは無理だよ。僕たち15年間も一緒なんだから」
「じゃあ彼女作ったら?」
私が半ば投げやりに言うと、「それも無理かな」と言って結生はまた困ったように微笑した。