-Vermillion-
警察署を出ると、
辺りはほんのり暗くなっていた。
時計の針は、六時を指している。
「せっかくセンターまで来たんだし、
今日は外で食べて帰ろうか?」
「うん…五丁目、久しぶり…」
昔はよく家族四人で、
買い物や食事をしに
センターまで来たものだ。
真朱はバイクを動かして来ると、
後ろに乗る様に合図した。
「朱乃、何食べたい?」
「何でもいいかな…」
真朱が選んだのは、
近くにある駐車場付きの
ファミリーレストランだった。
渡されたメニューを取りながら、
真朱の顔を覗き見る。
事件の事聞かないのかな……
警察での事情聴取の時、
真朱は立ち会いを許されず、
廊下の長椅子で待っていた。
真朱が知っているのは、
あの日私が帰ってから話した、
動揺した言葉だけだ。
「事件の事、聞かないの…?」
「大きな狗が、
被害者達の血を
吸い尽くしたんだろ?」
「それは、分からないけど…」
「この御時世に狂犬事件なんて……
<バスカヴィル家の犬>
じゃあるまいし。」
「何それ…」
「シャーロック・ホームズの小説だよ。
魔犬伝説がある
富豪の家の当主が死んで、
その遺体が発見された時、
傍に巨大な犬の足跡があったから、
魔犬の仕業じゃないかって
皆が言い始める話なんだけどね。」
「魔犬…?」
「大丈夫。結局犯人は人間だったよ。」
夕食後バイクで家に戻り、
部屋のベッドに横になる。
警察は話を聞いたものの、
全く当てにしていない様子だ。
それも当然か……
犯人が狗だと言うのだから。
――黒い大きな身体。
尖った耳と鋭い牙。
そして、真っ赤な眼。
「魔犬、か…」
私は目を閉じると、
静かに眠りに着いた。