-Vermillion-

 
爽と別れて家に帰ると、

真朱が夕食の用意をして待っていた。


「おかえり。」

「ただいま…真朱あのね…」

「もう九時だぞ?
 一体どこ行ってたんだよ。」

「御免なさい…爽と、一緒だったの…」

「飯は?ラーメン作ったとこだけど。」


口を動かしつつもテレビに夢中な兄を、

じっと見ながら考える。

狗を探している事を、

真朱に言うべきだろうか……

私はお湯に浸かりながらも考えた。



お風呂で散々考えた後、

やっぱり真朱には言わない事に決めた。

真朱に嘘は吐きたくない。

でもきっと嘘と沈黙は違う……

私の身勝手な見解だろうか?
 

何であろうと

危険な目に遭う可能性が

少しでもあるなら、

真朱は絶対に心配するし、

反対する筈だと思った。

ただでさえ両親から

責任を背負わされている真朱に、

これ以上心配をかけたくない。

小さな一つ一つは受け入れられても、

それが積み重なれば、

いつかきっと壊れてしまう。

 

真朱の弱点は私なんだ……
 
弱さ、脆さ、そんな全てが

私から生み出された物なんだ……



――漆黒の闇の中を、
  一筋の光が照らしている。
  その光の先で大きな烏アゲハが、
  道案内をするかの様に舞う。
  そっと手を伸ばすと
  蝶は指先に止まり、
  ゆっくりと羽を動かした。  

  またお眠りになるのですか、
  我が主様よ。
  ならば私は、
  貴女をお待ちするのみ……――


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