-Vermillion-

 放課後一度家に戻って書置きを残した。
 真朱に悪いと思いながらも再び家を出る。

<真朱へ:
 今日は加奈の家に泊まります。心配しないでね。 朱乃より>

 三人で夕食を食べて、一通り四丁目を歩いた。
 これと言って異常は見当たらない。

 勿論、直ぐに何か見つかるなんて思っていない。
 ただあまりに成果が出なかった事に、私達は少なからず落胆した。
 期待したのと同じ分の虚しさが、そのまま返って来た気分だ。

「あー、やめやめ!
 高校生に見つけられる犯人を、警察が見つけられない訳ないし。」
「そう言うなって…そもそも警察はワンコなんか信じてねぇんだから。」
「ワンコ、じゃなくて、狗だよ…」
 
 三丁目公園のベンチに座るなり、内輪もめが始まった。
 確かに、簡単には見つけられないかもしれない。
 でも続けていれば、もしかしたら……

「もうすぐバス無くなるから、今日はもう帰ろうよ。」
「ちょ…西山、何を勝手に……」
「朱乃、今日うちに泊まるんでしょ?」
「うん…」
「じゃ、これにて解散!」

 加奈の隣でバスに揺られながら、窓の外をぼんやり眺めた。
 爽は前の席で不貞腐れている。私達の作戦には、
 端から無理があったのだろうか。

 加奈の家に着いたのは、十時過ぎだった。
 寝仕度を整えた後、
 並べた布団にそれぞれ潜り込んだ時、加奈が思いついた様に言った。
「ねぇ朱乃、バスカヴィル家の犬って知ってる?」

「加奈も、そんな事言うの…?」
「他に誰から言われたの。」
「真朱…」
「あぁ、真朱から借りたんだっけ。」
 
 加奈は髪を一つに束ねると、明かりを消した。
「魔犬の仕業って言う訳じゃなくて、ただ少し似てるなって。」
「魔犬…」
「大丈夫。結局犯人は人間だったよ。」
< 21 / 101 >

この作品をシェア

pagetop