-Vermillion-

―――
 お天気雨の中、俺はいつもより早く大学から帰った。
 案の定誰もいない。いやむしろ、いて貰っては困るのだ。
 
 俺は部屋に荷物を置いて、向いにある父の書斎に入った。
 昨日の夜見つけたファイルを持って急いで部屋に戻ると、
 パソコンの電源を入れた。
 
 ネットで落とした地図を拡大する。
 住所はこの辺りに集まってるな……赤峰、余山、中山……
 連続する三つの市は、国を東西に分けるラインにもなっている。

 パソコン画面右下の時間を確認した。
 まだ十二時だ、今日中に回れるだろう。
 俺は鞄にファイルを詰めると、コンタクトを取って家を出た。
 そして、慌てて戻る。朱乃に書置きしないと。

 俺は再び家を出た。早く行って、早く帰ろう。
 家にいる時だって、裸眼じゃないのだ。
 朱い目で歩き回る事にものすごく抵抗がある。

 赤峰市一ノ三ノ七、ここか。
 ――ピンポーン……
「はい?」
「御免下さい、WNOの水野ですが……」
 
 俺は答えた。
 そう言えば、きっと相手が何か情報を漏らすと思ったからだ。

「あら、どうぞ。おあがり下さい。」
 金銭的に余裕のありそうな家だ。
 品の良いい奥さんは、俺に紅茶を勧めると口を開いた。

「今日はどういったご用件でしょうか?」
「実は僕、新人でして。
 実際にご家族からお話しを聞いて来る様に言われまして……」

「旦那なら至って普通ですよ。
 今の所、視力に何の異常の無いですし。」
「瞳が朱いと、視力に影響するものなのでしょうか。」

「いえ、ただ……
 体に異常が見られたら連絡して欲しいと言われたので……」
「それで、目の事だと思ったんですね。」
「えぇ……
 だってハーフとはいえあんな色、普通じゃないですから……」
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