-Vermillion-
 二人でカレーを食べてゲームをした後、ふと時計を見ると八時半だった。
「じゃ、あたしそろそろ帰るわ。
 二日連続で泊まりは、さすがに親に反対された。」

「気を付けてね…」
「あんたこそ、一人で大丈夫?」
「うん…」
「ま、もう高校生だしね!じゃ、また連絡するから!」

 チクタクチクタクチクタク……
 静まり返った部屋に、時計の秒針の音だけが響く。
 テレビを付けてソファーに横になると、体を丸めて目を閉じた。
 
(今日一番運がないのは、牡牛座のあなた!
 特に乗り物との相性が悪そう――)

 私は飛び起きると外に出た。
 良かった……今日真朱はバイクに乗っていない。
 
 少しほっとして家に入ろうとした時、
 目の端に何か黒い物が映った気がした。
 驚いて振り向いても、何もいない。
 私は急いで家に入ると、ドアに鍵をかけた。
 
 またソファーに丸くなる。テレビは音が煩くて眠れないので消した。

 チクタクチクタクチクタク……
 静まり返った部屋に、時計の秒針の音だけが響く。強く瞼を閉じた。
 窓の外で微かだけど物音がする。網戸に何かが擦れる様な――

 私は耳を塞いで、一層体を丸めた。
「真朱…真朱どこなの…?
 早く…帰って来て…真朱…」

――漆黒の闇の中を、一筋の光が照らしている。
  その光の先で大きな烏アゲハが、道案内をするかの様に舞う。
  そっと手を伸ばすと蝶は指先に止まり、ゆっくりと羽を動かした。  

  怯えておられるのですか、我が主様よ。
  ならば私は、貴女をお守りするのみ……――
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