-Vermillion-
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「何やってんだ、俺は……」
俺は風呂場の壁に拳をつくと、溜息を吐いた。
あいつの寝顔、寝言、それに――あの表情……
今まで散々見慣れてた筈なのに……
「ちくしょう……」
俺は壁を殴った。
シャワーの水がただ流れ続ける。
あのリストによると、どうやら俺と朱乃は姓が違う。
恐らく両親も本当の肉親ではなく、WNOの人間だろう。
四歳の時の記憶なんてほとんど残ってないが、
言われてみれば心当たりがないこともない。
十五年間ずっと妹だと思って可愛がって来た朱乃が、
本当の妹じゃなかったとしたら、
俺達は他人同士の一線を越えすぎている気がする。
いや、正直に言って、兄妹同士の一線ですら、今や際どいところだ。
俺と朱乃はお互いに依存し合って、長いこと生活しすぎた。
俺の行動の活力は朱乃だ。
今まで朱乃の為だけに、色んな事を頑張ってきた。
学校の勉強、部活の剣道、習い事の水泳……料理だってそうだ。
食いしん坊で舌の肥えた妹が、
笑顔で美味しいと言って食べられる様にと……
俺は……
もう朱乃なしで生きていける気がしないんだ。
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