-Vermillion-

―――
 「何やってんだ、俺は……」
 
 俺は風呂場の壁に拳をつくと、溜息を吐いた。

 あいつの寝顔、寝言、それに――あの表情……
 今まで散々見慣れてた筈なのに……
 
「ちくしょう……」
 俺は壁を殴った。
 シャワーの水がただ流れ続ける。

 あのリストによると、どうやら俺と朱乃は姓が違う。
 恐らく両親も本当の肉親ではなく、WNOの人間だろう。
 四歳の時の記憶なんてほとんど残ってないが、
 言われてみれば心当たりがないこともない。

 十五年間ずっと妹だと思って可愛がって来た朱乃が、
 本当の妹じゃなかったとしたら、
 俺達は他人同士の一線を越えすぎている気がする。
 いや、正直に言って、兄妹同士の一線ですら、今や際どいところだ。
 俺と朱乃はお互いに依存し合って、長いこと生活しすぎた。
 
 俺の行動の活力は朱乃だ。
 今まで朱乃の為だけに、色んな事を頑張ってきた。
 学校の勉強、部活の剣道、習い事の水泳……料理だってそうだ。

 食いしん坊で舌の肥えた妹が、
 笑顔で美味しいと言って食べられる様にと……

 俺は……
 もう朱乃なしで生きていける気がしないんだ。
―――

< 35 / 101 >

この作品をシェア

pagetop