-Vermillion-
#05「The Fool」正位置 – 純粋

-AVRIL 30 (Lun)-
 寝坊した私は、
 テーブルの書置きを見る暇も無くバタバタと出かけた。
 電車の中で腕時計に手を落とす。約束の三時まで後三十分……
 次の東高前で余山バスに乗れば、何とか間に合うはずだ。
 私は手すりに額を当てると、溜息を吐く。

 小雨が降る中、
 中央線余山駅前の時計台の下に遥ちゃんの姿があった。
「遥ちゃん…!ごめん、お待たせ…」
「気にしないで!あと遥でいいよ。」
「じゃあ、朱乃で…」
「オーケー!じゃ、行こうか。」

 引っ込み思案の私がこうして、
 また新しい友達を作れた事が、何より嬉しかった。

「このカフェお勧めなんだ!美味しくて安いんだよ。」
「お洒落…」

 ケーキセットを食べ終わると、遥は水を一口飲んだ。
 澄んだ朱い瞳で私をじっと見ながら、真面目な顔で口を開く。
 
「あの扉、市内を渦巻状に移動してるみたい。
 一丁目から五丁目センターまで。」

「渦巻状に…?どうして…?」
「理由は分からないけど、大体一時間置きにね。」
「私達にしか、見えないのかな…?」
「多分朱い目の人には、全員見えると思う。」
「あの扉、どこへ繋がってるのかな…」
「多分、魔界かな。」
「魔界って…?」
「この世でもあの世でもない、異世界の事だよ。」
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