-Vermillion-
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俺は加奈に連れられて近くのコンビニまでアイスを買いに出ていた。
「真朱!見て、海だよ!」
「昨日も来たじゃん。」
「でも夜の海って、見てると何か不思議な気分にならない?」
「確かに……」
暗闇の中で海と浜が一体化して、境界線が見えなくて、
つい飲み込まれそうになる。
「真朱、あたしね、ずっと真朱の事好きだったんだ……」
波の音に掻き消される程小さな声だったけど、はっきりと聞こえた。
多分こういう時、聞こえなかった事にしてしまう人もいる。
けれど俺には、加奈の好意を無視するなんて出来なかった。
それでも頭が混乱して、言葉が出て来ない。
「でも返事は今じゃなくていい。ちゃんと考えて欲しいの。
暫くの間あたしのこと見てみてよ!それで駄目なら、諦めるから……」
「加奈、俺は……」
「いつまでも朱乃だけを見てるわけにもいかないでしょ?」
俺は驚いて加奈を見た。少し涙ぐんだ瞳が見返している。
「何で、そんな事……」
「知ってるんだよ。だってずっと見て来たんだもん。」
「加奈……俺……」
加奈は涙を袖で拭うと、旅館の方へ歩き出しながら言った。
「真朱は朱乃の事しか見てなかったから、
気づかなかったんだよ。」
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