-Vermillion-
「いやぁ!」
遥の悲鳴でようやく状況を理解した。
どんなに残酷でも、それが現実なんだと。
私は膝をつくと、地面に座り込んだ。身体中の全ての力が抜けていく。
女の子が変わり果てた姿で、ぐったりと真朱の腕に抱かれていたのだ。

グルルルルルル……
獣の唸り声がして、奥の茂みがざわついた。
ーー黒い大きな身体。尖った耳と鋭い牙。
  そして、真っ赤な眼。

「くそ……さっき追い払ったのに、まだ出やがったか。」
「真朱兄、そこに何かいるんすか?」
「今すぐ消えて。」
「水野……?」
「帰って!来た所に帰って!今すぐ消えてよ!」

黒い大きな狗と目が合った瞬間、私は思い切り睨んだ。
狗は怯んですごすごと退いて、そのまま扉の向こう側へ消えると、
扉は大きな音を立てて閉まった。

女の子に視線を戻した。
華奢な細い身体、癖のある髪――
見慣れたその全てが、首元から溢れた血で濡れている。
私は這いつくばる様に近づいた。

「加…奈…?」
遥の泣き声と、
電話に向かって必死に説明する爽の怒鳴り声が、した様な気がした。

「加奈…?加奈?加奈!」
真朱の脇まで行くと、血に塗れた冷たい頬をそっと両手で包んだ。

「大丈夫よ。たった今爽が 救急車を呼んだから。大丈夫。ね、真朱…?」
真朱は目を背けたまま何も言わない。
きっと既存の言葉ではもう、表しきれないから。
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