-Vermillion-
―――
朱乃が部屋に入ったのを確認してから、俺はその女を睨みつけた。
職業を偽り、過去を偽り、母親だと偽った、この女。
この女のせいで……
「加奈が死んだ。」

「えぇ……だから朱乃にちゃんと話さなきゃと思ったのよ。」
「今これ以上負担を掛けたら、あいつが壊れると思わないのか?」
「立ち直ってもう一回壊すのを、残酷だとは思わないの?」
「朱乃には、俺から言う。」
「それは構わないけど、ちゃんと伝えられる?可哀そうだからって……」
「俺が言う!これ以上あんたらに……それから、二度と俺に触るな。」

「今その手であたしの首を絞めているのに?
 壁に叩きつけるなんて、ひどいじゃない。」
「痛みすら感じないみたいだな。本当、人間じゃねぇよ。」
「人間じゃないもの。当然でしょ?」

俺は手を放した。どうせ殺しても死なないんだろう。
「この……化け物が……」
―――

私は枕に顔を埋めると、さっきの光景を掻き消そうとした。
真朱がママに暴力を振るうなんて……
悲しみと苦しみを力でぶつけるなんて、そんなの、絶対に間違っている。
私は着替えずそのまま布団に入って、部屋を見渡した。

「美影…美影どこにいるの…?」
‐ここにおります、主様。
「ずっとどこに行ってたの…?こんな時に…」
‐食事を取っておりました。何かございましたか?お顔色が……
「今日…今日ね…加奈が…」
‐加奈様が、どうされたのですか?
「魔犬に、殺されたの…」
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