-Vermillion-
ママの言った通り、その日一日私達は警察署に缶詰にされた。
私達とは、爽、遥、真朱、私の四人だ。
ひたすら同じ話を繰り返し、刑事さんについて現場に行ったり、
あれこれ説明したりしている内に、あっという間に夜になっていた。

遅い夕食に出前して貰った天丼を小さな部屋で食べている時、
事件の担当の一人である若い刑事、篠崎さんが入って来た。
四人に缶コーヒーを渡し、自分も座って溜息を吐いた。

「俺は君達の言う事を信じたい。でも上には通用しない報告なんだ。」
篠崎さんは頭を抱えた。
きっと事件を解決したいのに、世界の波に飲まれているのだ。
同じ苦しみの中で、もがいている仲間なんだ。

「じゃあうちらは篠崎さんに送って貰うから、ここで。」
「真朱兄お疲れす!じゃあ水野、明日学校でな!」
「うちも東高に転校しようかな。」
「家から遠すぎだろ……」

二人が大きく手を振りながら、車に乗り込むのを見届けると、
真朱を見た。
「二人とも、元気そうだね…」
「空元気だよ。皆辛いんだから……」

~私はママに手を引かれて、降りしきる雨の中を歩いていた。
時は多分、六月の半ばといった所か……
梅雨の肌に着く蒸し暑さを感じる。
家の玄関を開けると、小学校低学年くらいの男の子が出迎えに来た。

「朱乃!お兄ちゃんに挨拶なさい。」
「お兄ちゃん…?」
「そう。朱乃のお兄ちゃんでしょ、忘れちゃったの?」
私は手に持っていたアジサイの花をくるくる回した。
この人は、誰……?

「お兄ちゃんなら、わたしの好きな花、分かる?」
その人はじっと私を見てから、微かに笑った。
「アジサイの花、だろ?朱乃。」~
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