-Vermillion-

私は躊躇った。今ここで返事をしないといけないのだろうか。
いや、早い方がいいだろう。
脳裏に加奈の顔が浮かんだ。まぶしい笑顔が途端に、冷たい表情に変わる。
それがゆっくりと真朱の顔に変わった。爽、遥、ママ、パパ、そして……
「美影、明日、返事をする…」
-承知致しました、主様…… 〜

-MAI 9 (Mer)-
一晩中よく眠れないまま、朝になった。
体を起こすと、強張った筋肉のあちこちが痛い。
そのまま制服に着替えてリビングへ向かった。今日は、加奈の告別式だ。

おばさんの車には、昨日を同じく爽と遥が乗っている。
私は黙って乗り込んで、真朱の為に隣の席を空けた。
真朱は何も言わずにそこに花と荷物を置くと、一つ後ろの席に着いた。
一瞬心が複雑に揺らいだけど、真朱の心境を察して何も言えなかった。

数人だけの形式的な儀式が終わると、出されたお弁当を皆で黙々を食べる。
食事を終えると、私達は特別に加奈と会わせて貰った。
首元の外傷は服で上手く隠され、
綺麗に梳かれた髪が少し頬に掛かっている。
手を伸ばしてそれを耳にかけると、震える手でその頬に触れた。

思わず手を引込めたくなる程冷たかったけど、怯まなかった。
加奈に会えるのも、これで最後だ。

暫くして家族と私達の手で、棺がゆっくりと運ばれた。
ずっしりとした重さが木材のせいだけではないことも、
何となく心の何処かで分かっていた。
加奈はもういない。とても大切な友達ーー失ってから分かった。
< 89 / 101 >

この作品をシェア

pagetop