-Vermillion-
内気な私に初めて明るく声をかけてくれた。
素っ気なく突き放しても、決して傍を離れないでいてくれた。
時には甘やかしたり、時に厳しく叱ったりして、泣いたり笑ったり。
いい事も悪い事も全部ーー同じ時を、同じ経験を共に歩んだ私の親友。
これまで加奈の笑顔に、どれ程救われてきたか……
全ての思い出が止めどなく溢れて、止まらない。
流れる涙を拭う事に、どんな意味があるのだろう。
加奈の棺が台に置かれた、らしい事が雰囲気で何となく分かった。
けれども私は、その手を放せずにいた。これを放したらーー
「朱乃……もうここまででいいんだ……」
耳元で囁いた真朱の声がとても遠くに聞こえる。私は指に力を入れた。
「朱乃……」
「水野……」
どうして加奈がこんな目に遭わないといけなかったの?
どうして加奈なの?どうして、私じゃなかったの……?
***
「あたし達、ずっと親友だかんね!覚えといてよ?」
***
そう言って笑ってよ……
もうズルなんてしないから、またゲームをしようよ……
勝つまで続ける!って強がってよ……お願い、加奈……
「ほら、朱乃……もういいだろ……」
大きな手が私の手を取った。優しく棺から剥がそうとする。
私は真朱の手を振り払った。
「離してよ…加奈を、加奈が…」
爽を遥が俯きながらも私の腕を掴んだ。
棺から私の手が離れると、加奈を乗せた台車はゆっくりと運ばれて行く。
私は二人を振り解いて走り出した。
駆け出した私を、真朱は背中から強く抱きしめる。
あまりに力が強くて、息が苦しい。
「離して真朱!やめて!加奈を連れて行かないで!もっと、もっと傍に……」