-Vermillion-

泣き崩れた私の背中を、周りはただ見つめる事しか出来なかった。
きっとその時の私にかける言葉なんて、
この世にはまだないんだと、私は思った。

分かってる。
取り乱しても、叫んでも、縋り付いても、加奈が帰って来るわけじゃない。
でもその間は傍にいわれる。一緒にいられる。形を留めていられる。
加奈の形が無くなってしまうなんて、想像したくない、想像出来ない。

棺が見えなくなっても、私はその方向を見続けていた。
目を背けたって時間が解決してくれるなんて事はないから……
本当にこれで、これで最後なんだ……
私は床にへたり込んだ。ただただ、そこに座り続ける事しか出来なかった。

その日は真朱に負ぶさって帰った。
足に力が入らなくて、まともに歩けなかったから。
涙なんてとっくに枯れたと思っていた。
でもそんな事はなくて、そこに限りがない事を知った。
悲しみに底がないという事も。

午後四時。家に戻ると、真朱は私をベッドに寝かせた。
「泣き疲れただろ?ちょっと早いけどもう休め。な?」
私は黙って目を閉じた。深い闇へと落ちて行く。

〜白い薔薇の咲き乱れた黒い世界で、
 真朱の姿をした美影が、此方に歩み寄ってくる。
 美影は私の手にそっと触れると、傍にあったベンチに座らせた。

-主様、どうなさいますか?

私は美影の手を強く握った。美影が驚いて此方を見る。
「……行く…それが、それが、私の定めなら……」
-主様……
「もっと早く、行って加奈を…救いたかった…」〜
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