-Vermillion-

-MAI 10 (Jeu)-

———
〜夕方、もうすぐ日が暮れるという頃、急に雨が降り出した。
 サッカーの練習は途中で中止になり、スポーツバッグに荷物を詰める。
 「真朱…!お疲れ様…」
 振り返ると、傘をさした朱乃が嬉しそうに走って来る。
 「一降り、来そうだったから…」
 「迎えに来てくれたのか?ありがとうな。」
 「荷物増えると、良くないと思って…」
 そう言って俺の方に傘を突き出した。
 「大きい傘、一緒にさそうね…」〜

 目が覚めた。無気力な手を伸ばして目覚ましを止める。八時か……
 講義の時間割を考えながら支度をしてリビングに降りた。誰もいない。
 朝食は母さんが作ったのか?そう思ってキッチンを見ても食器がない。
 首を傾げながら二階に戻って、各部屋を調べた。やっぱり誰もいない。
 俺は戸惑いながらも、大学へ向かった。

 頭の中が混乱して授業が全耳に入らない。
 朱乃は学校に行ったとして、母さんは何処に行ったんだ?
 WNOに戻ったのか?それとも朱乃を呼び出してあの話を……
 いや、今は考えない事にしよう。そう思った時メールが来た。爽からだ。
 ピピピ。[本文: 真朱兄、今日水野って休みすか?来てないんすけど。]

 朱乃が学校に行ってない?なら、何処に行ったっていうんだ。
 家にもいなかったし、加奈がいない今、
 他に行きそうな場所なんて見当もつかない。
 俺は机の上を片付けると、こっそり講義を抜け出した。

 朱乃の携帯は電源が切れてて繋がらない。一応母さんにも掛けてみる。
-お掛けになった電話番号は、電波の届かない所におられるか、電源が——
 母さんの場合、圏外だろうな。上界なんて、電波が届くはずがない。

 俺は諦めて家に戻ると、手掛かりを探しに朱乃の部屋に入った。
 ふと半開きになった引き出しが目についた。
 更に開けてみると封筒が四枚入っている。爽、遥、パパとママ、真朱。
 俺は自分宛ての封筒を開くと、その内容に目を見開いた。
< 92 / 101 >

この作品をシェア

pagetop