-Vermillion-

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 下の階から母さんの声がする。どうやら俺を呼んでいるらしい。
 返事をせずにもう一度手紙を読み返すと、
 丁度読み終えた所で母さんが部屋のドアを開けた。
「真朱聞いて、大変なの!朱乃が…朱乃がね……」

 俺は慌てふためく母さんをぼんやりと見つめた。
 力の抜けた掌からはらりはらりと手紙が落ちて、無様に床に散らばる。
 涙が一筋、また一筋と頬を伝った。

 あぁ……無になるって、こういう事なんだ。

 視界に広がる暗闇、見えるのは果てしない絶望だけ。

「俺だって、愛してる……朱乃だけを、誰よりも愛してるよ……」

 兄妹だろうが何だろうが、ちゃんと朱乃に言えば良かった。
 兄妹じゃないと知ったその時、直ぐに言えば良かったんだ。
 弱いのは、俺の方だ。

 涙が止まらない……知ってた、知ってたよ。
 Vermillionである事、魔界に行かなきゃいけない事、
 母さんの事、蝶の事もずっとずっと前から。
 きっと俺は私欲を優先したんだ。

 お前に行って欲しくなくて、お前を失うのが怖くて……
 ずっと言えなかった。
 そのせいで加奈を失う事になっても、俺は言わなかった。

 朱乃がいなくなって分かった事、
 それは思い出の他には何一つ残らないという事だけ。
 永遠に続くと思っていた幸せな日々。
 その突然の終わりは、俺の命のピリオドに思えた。

 これから俺は、何を糧に生きて行けばいい?
 もう朱乃に必要とされる事はない。

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