-Vermillion-
この期に及んでやっと朱乃の強さが分かった。
臆病で、慎重で、内気な俺の妹。
その繊細な外見と優しさが、朱乃に弱いという印象を与えたのか?
違う……
ただ傷つけるのが怖くて守りすぎたんだ。
俺の過保護さが、朱乃を縛ってしまった。
小さな鳥籠に閉じ込められた、大きな羽を持つ鳥は、
長い年月をかけて飛び方を忘れてしまう事もある。
それが何かのきっかけで、大空を羽ばたきたいと思ったんだろう。
自分だけの力で——
「真朱兄……どうするんすか……」
「どうするも何も……どうにもしようがないだろう?」
「うちはまだ朱乃の事、完全に諦めてないから。
うちだってVermillonなんだから、きっと何か出来る事がある筈だよ。」
俺は驚いて遥を見た。この子は一寸の迷いもなくそう言ったんだ。
それなのに俺は……一体何をしている?
大事な妹が訳の分からない理由で、訳の分からない世界に送り込まれて、
それでどうにもしようがないだと?何を諦めている?
何よりも、誰よりも、愛した大切な妹じゃないか——
深呼吸を一つした。俺も、本当に強くなるべき時が来たんだ。
「実は、俺……」
そう言ってコンタクトを外す。
人差し指に乗った黒いレンズを握り潰すと、真っ直ぐ前を見た。
小さい頃から付けていた、身体の一部の様な物。
それを取った今、何だかもの凄く気分が清々しい。
「実は、俺もVermillionなんだ。」