-Vermillion-

 少しの沈黙の後、きょとんとしていた二人は顔を見合わせて笑い出した。
「何かと思えば真朱兄、今更っすよ。」
「まさか、お前、ずっと前から?」

「知ってたというか、そうなんじゃねぇかって勝手に思ってただけすけど。
 それに真朱兄には魔犬が見えてたっぽかったから。そうなんかなーって。
 加奈の事件の時、『さっき追い払ったのに』って言ってたし。」

「うちもなんとなくね。朱乃のお兄ちゃんだし、そうなのかなぁって。
 確信はないけど、女の勘というか。でもきっとそうだと思ってたよ!」

「でもやっぱ真朱兄も言いたくないから言わねぇんだろうと思って……」
「真朱が言うまではうちから聞かない事にしたの。」

「お前ら…本当に……」
 俺は拍子抜けてテーブルに顔を伏せた。
 恥ずかしいのと嬉しいので、枯らした涙がまた出そうだ。
 二人の温かい視線を感じながら、俺は顔を上げられずにいた。

 知らない方がいいから、知らないふりをする。
 傷つけたくないから、言わなくていい事をあえて言わない。
 本人がその閉ざされた心を開いた時、隠さずに全てを受け入れる。

 嘘でも偽りでもない。
 二人はただ二人なりに、俺の為を思って考えただけだ。

 どうして言わなかったんだろう?もっと早く話すべきだった。
 この二人にも、そして、加奈にも……

 同じ悲しみと苦しみを背負う仲間。
 こんなに温かくて優しい、大切な友達。
 掛け替えのない物を失くしてしまったけど、おれにはまだ此奴らがいる。

 俺は袖でさりげなく涙を拭うと顔を上げた。
 今はやけに、世界が綺麗に見える。

———
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