state of LOVE
「その…この深山ゆう男に、えらい目に遭わされとったみたいで…」
「えらい目?殴られたりとかそんなんですか?」
「いや、それも勿論あるんですけどね」
「どうゆうことですか?」

漸く、ハルさんの表情が曇り始めた。

メーシーの語る昔話からして、ハルさんはもっと頭の回転の速い人だと思っていたのに。幸せボケとは、頭の回転をここまで鈍くするものなのか。何とも恐ろしい。

「それがあのー…乱暴を」
「乱暴って…いやいや、それはないですよ。千彩は俺が初めてです」
「いや、勿論初めてなんは初めてなんですけどね。何て言うんか…」
「…何ではよ言うてくれんかったんですか」
「ちー坊が、絶対ハルさんには言わんといてくれ言うたんです。泣いて言うもんやから、俺もトモさんもよぉ言わんで…すんませんでした」

ここまで予想通りだと、面白味も何もあったものではない。

テーブルに肘をついて頭を抱えてしまったハルさんと、心配そうにその様子を見つめる大介さんの頭の中は、おそらく20年近く前のちーちゃんのことでいっぱいなのだろう。ハルさんよりも一足も二足も速くその答えに辿り着いていた俺は、ふぅっと息を吐いて重苦しさをやり過ごすことにした。

「大丈夫っすか?ハルさん」
「おぉ…」
「無理っぽいですね。話、進めさせてもらっても?」
「そうしてくれ」

これは暫く立ち直れそうもないな。と判断し、何やらブツブツと唱え始めたハルさんのことは、申し訳ないけれど放置させてもらうことにした。

過去より今

美緒を引き取る気でいる俺は、これから先のことを考えなければならないのだから。

「この人、危険な人なんですよね」
「おぉ。せや」
「どうゆう風に危険なんですか?美緒の母親が戻って来る可能性は?」
「ない…やろな」
「死体愛好者か何かですか?」
「いや、そうとちゃうんやけど…」

言い淀む大介さんは、チラチラとハルさんを気にしていて。あぁ、ちーちゃんの過去を暴くことになるから言い辛いのか。と思うものの、ハッキリしてもらわなければ俺としても考えを纏めるのに困る。


ちーちゃんが生きて帰って来れて、美緒の母親にその可能性がない。
ちーちゃんが売られて難を逃れて、美緒の母親は逃れられない。


少ない情報を手掛かりに頭をフル回転させてみたところ、辿り着いた先は一つだった。

「極度のサディスト?」
「…せや」
「結構…危ない性癖ですね」

サディストというのは、度を越せば本当に危険なのだ。俺が言うのも何だけれど、一歩間違えば生を奪うことに繋がりかねない行為をする輩もいる。

いや、別に俺がそうだからわかるわけではない。あくまで本やネットの知識なのだけれど。
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